アメリカ不妊治療記

アイルランド⇒アメリカの不妊治療記録。ICSI(体外・顕微授精)PGT-Aで妊娠・出産しました!

アメリカならではの妊娠出産の不安ー中絶禁止法との関わり

アメリカ中絶禁止法と不妊治療

少しシビアな現実の話です。
実は8月くらいにこの記事を書き始めていたのですが、なかなか難しい問題であり、躊躇していた内容です。実際に陽性判定が出た今、確実に向き合わなければいけない問題なので、今の自分の考えを含めてやはり残しておくことにします。

近年続いているアメリカ国内の混乱の中に、アメリカ、特に共和党支持の強い州(赤州)で暮らす女性が絶対に無視できないものがあります。

私がアメリカに移住してきた年、一番最初の衝撃的なニュースは、テキサス州法「ハートビート法」(通称)でした。

この州法は、妊娠6週間を過ぎた人工妊娠中絶に関わった者を一般市民が民事訴訟し、10000ドル以上の法定損害賠償を請求することを可能とするものである。
-wikipediaより

ここにあるように、ほぼ妊娠が発覚するかどうか…というくらいの初期の中でも超初期の時期から、人工中絶を行うと医師も含めて訴えられる可能性がある。不妊治療界にも激震と混乱が起こりました。

この訴訟を起こすことが出来ない例外として医療上の緊急事態が挙げられているが、この例外にはレイプや近親相姦による妊娠の人工中絶は含まれていない

-wikipediaより

この時には、不妊治療としては適切な処置をできるし何も不安になることはない、と医師がニュースなどで説明したり…という事もありました。赤州であっても都市部は民主党支持が大半だったりするので、この例外の場合でも適切に処置が受けれるようサポート団体が存在してたりもします。おそらく若くて誰にも相談できなかったり、貧困層で他州へ行くことが難しい場合を主にサポートしているのかなと思いますが…。
この法律ができたとき議論が巻き起こり、勿論大規模なデモが起こり、何とか状況が好転してくれれば…と思っていた矢先…

今までアメリカの中絶の権利の基礎となっていた『ロー対ウェイド判決』が最高裁で覆され、中絶法は合憲と判断されてしまいました。
なんとそこから多くの赤州がテキサスの後に続いてしまうことに…。

勿論今も全米でこの判決に対する批判が相次いでいますが、既に以下の州では禁止法が成立しています。

www.nytimes.com

※この記事を書き始めたのが8月だったので、添付のNYタイムズの記事は2か月前に出されたものです。

南にものすごく偏っています。
上記の地図の完全禁止の場合は、週数の設定すらなくなっているようです。
このほかにも未だ議論の最中で留まっている州もあり、そのような州を含めるとかなりの数になります。

女性が望まない方法での妊娠の場合がフォーカスされがちですが、中絶を望む状況とは真反対と思われる不妊治療をしている身としても、無視はできない問題です。
その理由は、母体の危険が確認された場合の細かな規定がされていない事。

医師にも、異箇所妊娠や早期分娩など命に危険のある場合についての処置がどうなるのか聞きました。

Q.もし卵管などに妊娠が成立してしまった場合、適切な処置はしてもらえるのか?
A.これについてはクリニックでも対処可能。

Q.早期分娩などで母体に危険がある場合は?
A.病院では妊娠を正常に保持するための対処をすると思う。緊急性があれば対処はするはず。はっきり言えるのは、障がいなどで中絶を希望する場合は、他の州へ行かないと無理。

この回答でも、大方の妊婦さんは安心なんですが…
この緊急性を判断する医者(妊娠成立後から出産まで見てもらう医者)の判断がかなり重要なのですが、法に触れたくない思いから躊躇し、不用意に妊娠を継続させるケースが多発しています。

最近記事で読んだ実際にあったお話。(要約)

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すんなりと妊娠したご夫婦。
出産までもそのまますんなりいくんだろうと思っていたところ、まだ胎児が育ち切らないうちに破水。
赤ちゃんは勿論弱っていきますが、心拍は動いている状態。
普通であれば、医師は赤ちゃんはこのままでは助からないと判断し、細菌感染などで敗血症などが起こり容体が急変する危険がある母体を優先して中絶手術を確定する。
しかし、この時の医師は申し訳なさそうに”判断の基準となる症状”がまだ出ないため処置ができないと伝えた。
結局お母さんは、どんなに体調が悪くなっていってても、悪臭の分泌液が出てきて素人目にも感染が悪化してるとわかっても、まだ処置は無理だといわれ、いずれ亡くなっていく赤ちゃんを抱えたまま身体的精神的苦痛に耐えた。
もう他州まで行こう、とフライトを予約することにしたとき、いよいよ”中絶判断基準の重篤な症状がでて”中絶を行えた、というもの。

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運よく命は助かったものの、危なかったと思います。

夫と私のビザの関係もあり、日本で出産をするのは夫婦が離れる期間が長すぎると思っているので、私たちの場合はリスクも視野に入れながらここで妊娠出産を目指すと決めました。念のためにいざとなったらどこの州に行き、どこが対応してくれそうかも調べておくと思います。

赤州に拠点を置く会社では、中絶が必要な社員にサポートをすることを表面しているところも数多くあります。
夫の会社も、社員に中絶が必要な場合旅費を負担するそうです。
本当に今日ここで何か処置をしなければいけないという緊急性のある場合は医師も動くはず(…としか言えないのがちょっと怖いですが)ですし、もし何か問題が起こって医師の言葉に不安を感じたら早めの判断で他州へ行くべきかと思っています。

世界の先進国の中でも先進国のこのアメリカで、性的な虐待や犯罪に巻き込まれた場合は勿論のこと、子供を持つことまでも躊躇させるような事態になっているのは本当に悲しい事だと思います。
胎児の命を大事にする考えもわかりますが、それであれば、母体の命も大事にするべきで、最低限このように医師が処置を迷う状況はほっておくべきではないと思っています。
とはいえ、移民で投票権もない私たち夫婦がこの国にいる以上、現状を受け入れなければいけない部分でもあります。
そろそろ中間選挙もあるので、動向がとても気になるところです…。

すんなりと出産する方の体験談の方が目につく中、赤州で妊娠出産を目指すとはどのようなリスクがあるのかについてちょっと真剣に考えてみました。